照応アレルイア



の携帯のアドレス帳は他の人が見るとなかなかにカオスである。
一般の名前に混じって元の名前が思い浮かばないあだ名が並びまくっているのだ。
(ちなみに普通に登録してあるのはよく電話する店と接触の少ない人物だ)

そんなカオスの中、一番上で燦然と輝いているのは、

 『赤司征十郎』 

この5文字だ。
お互いに合わないと言うが仲は良く、黒子という伏兵によりあだ名も付け、それで呼んでいるのだが、いつまでも変えられる気配はなかった。

“入っている”と言えば進行形でそうではあるが、“入れた”覚えはなかったりする。
もちろん交換した覚えもない。
いつの間にか入っていた、が正解なのである…。



さて、そんな曰くつきのアドレスをが見つけたとき、もちろん何もなかったわけではない。
それは私用で書店にかけようとした時のことだった。

「えーとこ、…こぉ?!赤司!?」
入れた覚えなんてないぞ?!との脳内はめまぐるしく赤司とのやり取りを思い出す。
うん、何度も顔を合わせて嫌味含めいろいろ話してきたけど交換した覚えもない、
…まさかと思いたいが、彼の前に携帯を出しっぱなしにした覚えもない。
かばんを勝手に開けて操作されたとは思いたくないが…
うんきっと黒子とか五将?とやらのツテで木吉経由かもしれない。そうに違いない。
なんだか背中が寒くなって、は無理矢理思考を終わらせた。

「まぁ入ってるものは仕方ないね」
過程はどうあれ実害がないものであれば、最終的に有用に使うものだと思っている。
多分赤司の手によってこれが為されたのであれば、こちらの番号アドレスもばれているだろうし、連絡が取りやすくなって万々歳じゃないか。

それはともかく、家族以外の名前がアドレス帳に載っているのが気恥ずかしくて、
皆と同じようにあだ名に変えておこうと編集キーめがけて指を動かす。

ぴんぽん

合わせた瞬間に間抜けな音を上げる手の中の端末。メールの着信だった。
通知バナーの表示は――赤司。
後に回したら怖そうな予感がするので編集をやめてメールを開けばそこには、


―――――――――――――――――――
from:赤司征十郎
title:もしかして
本文:
今嫌な予感がしたんだけど



あのあだ名に変更しようとしてないよね?
―――――――――――――――――――

なにあの子怖い!!!なんなの見えてるの?
冷や汗が伝うのを感じる。
メール内容があまりにもピンポイント過ぎる。あの子怖い。大事なことなので何度でも言う。

と、バイブレーションと共にぽんぽろと響く間抜けな音。
さっきと音が違う。通知はもちろん電話の着信というオチだ。
相手なんて見ずとも予想がつく。もしもし、諦めた声が出た。

『やあ、気付いたかい?』
「やっぱり君の仕業かい。お願いだから知り合いからのつてだと言ってほしいな?」
『ははは相手にそんなまどろっこしいこと…ねぇ?』
「あーあーきこえなーい!もう犯罪ぎりぎりだよ君…」
予想は大当たり。相変わらず機嫌はよさそうである。
で、メールの上でさらに電話でたたみかけるという念の入れようはどうしたのかと問う。
なら、メールならリアルタイムじゃないから、とかいって改めて変えそうじゃない?』
「…アタリだよ。なんなの君空中に目があるの?心が読めるの?」

『未来は見えるかもね?後ろを見てみなよ」』

最後は電話越しと空気越しにダブって聞こえた。今日は嫌な予感の大セールか?
振りかえった先には、――ですよねー。



「征十郎って呼んでいいと何度言えばいいのかな?」
耳にあてた携帯を離す手つき。ため息と一緒に聞こえたことば。
呆れ混じりだが親しさと熱のこもったそれ。

「名前で呼ぶのは家族と恋人と決めているんだよ」


「そう、ならちょうどいいね、恋人になろうか」


恋人の権利と名前を呼んでもらえるのと一石二鳥だ、とそれはそれは晴れやかな笑み。

え?
ええ?

「なにその顔?何か問題でも?」
「めっそうもないです」


そんなわけで、年下の彼氏は決定事項でした。
ええ私も、好きですよ!!
名前の表示が変えられる予定はこれからも、ない。

130301