望んで力を手に入れたわけじゃない
けれどその運命を私たちは甘受している
摩天楼
ジュニアハイスクールで立てこもり。
となれば人質はもちろん子どもたちである。
その数、約100人。
教員もいたようだが、交渉が決裂し二人がおそらく虫の息だという。
もちろんこの事態にヒーローが動かぬはずがなかった。
『この事態にヒーロー達はどう対処するのでしょうか、おっとここでやってきたのは我らがキング・オブ・ヒーロー、スカーイハーイ!
彼ならばこの状況を好転させてくれるでしょう!!! おや、何か抱えています!』
いつものように颯爽と上空から登場するスカイハイ、レポーターのテンションも上がり調子。
しかし今日はカメラへのさわやかなコンタクトはない。マスクの顔のみ向けてすぐにスクールの上空へ向かう。
その腕には一抱えもある何か。
続々とヒーローたちが到着するが、人質の数、そして犯人の手の速さと人数に手をこまねいているようだ。
皆で突入する手がないでもないが、激昂した犯人が子どもに手を掛けないとは言えない。
交渉人を、となったところで上空に待機していたスカイハイが、手を大きく広げた。
抱えていた何かはもちろん落下していく。
奇妙にいびつな球形を描いていたシルエットは落下していくうちに引き伸ばされ、
いや、それは人の姿。
寝ていた猫が体を伸ばすように、人が立ち上がるようにそれはシルエットを変え、スクールの屋上に危うげなく着地したのだ。
立ち上がる人影をヘリのライトが照らしだす。
照らし出されたのは黒と金の鮮やかな、どこか懐古的な海賊のような。
目元から上をゴーグルと帽子で覆った、極端に露出の少ない、華やかな姿。
「ありゃ・・なんだ?」
「人でしょう」「そういうことじゃねぇよ!」
「あんなとこに出て、犯人に気付かれたら危険よォ」 気付いた犯人が子供に銃口を向けたら、あれが一般人ならさらに危険だ。
「新人じゃないの?」
「スカイハイがつれてきたんでしょ!?どこいったのよスカイハイ!」
「私はここにいるよ!彼女なら大丈夫、そして大丈夫だ!」
ドラゴンキッドの一言と、
さわやかに降り立ったスカイハイにさわさわとした焦りが少しだけ収まるが、油断はできない。
スカイハイが連れてきたのだから解決に足る何らかの能力(NEXTに限らず)があるはずだろうが・・まだわからない。
と、屋上の人物が青い燐光を纏わせて歩き出す。やはり能力者か。
NEXT、顔を出さない派手目の衣装、とヒーローの可能性が限りなく高まる。
屋上の端に付いたNEXTは静かに手を伸ばし、何かを撒くそぶり。うっすらと燐光の粒が降った。
目線の先、伸ばした手の少し先には人質の集められた体育館がある。
そしてしばし、ヘリのモーター音と遠巻きの観衆や警察のざわめきのみがその場を支配して。
屋上の人物は燐光を微弱なものにして、体育館の屋上へ跳び、
避難通路から堂々と体育館の避難扉を開けて中へはいって行った。
「なにやってんだあいつ!!」
燐光を放ったのみのNEXTはそれ以外に何もしていない。
あの落下からの運動能力からみて、身体系の能力だろう、いくら自信があっても危険すぎる。
本人よりも子どもの安全を考えればするべきでない、身を盾にして守るためロックバイソンとワイルドタイガーが動く。
ロックバイソンに続いて、現実に戻ってきたヒーローたちが動く。
スカイハイは、最後だった。どこか自慢げに。
新人物が入って行ってからも、体育館は静かなものだったことに気づいている、いや知っているのは彼だけだった。
ヒーローたちが各々逃げ道を塞ぐように、突入態勢をとる。
そして
開かれた先には
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『それでは本日よりのニューヒーロー!』
『レディ・ヒュプノ!!!』
壇上を歩く海賊。
正義の名目とどちらかといえば悪の姿、コントラストの強い図だ。
鎮圧中のそれとは段違いの明るさでライトアップをされた姿は明らかに細身の、女性そのもの。
スカーフの巻かれた懐古的なブラウスを押し上げ主張する膨らみも明らかで。
『彼女の能力はは眠りを自在に操る<ヒュプノ>!
ひとたび姿を現わせば、今回のように誰よりもスマートに事件を解決してくれるでしょう!』
露わになった口元でほほえみを形作り、なめらかなアルトで「これからよろしく」
なだらかに、気障な礼を一つ(あたかもオペラ男優のよう!)
期待を寄せる盛大な拍手がわきあがった。
(『キャーさらわれたーい!』のちにそう叫ばれるなんて!!)
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突入してすぐ、ヒーロー達は目を見張る。
体育館内には穏やかに眠る子どもたち、そしてぐるぐるに縛りあげられた、これまた寝ている犯人、
痛みを忘れて眠る怪我人と救急措置をとる先ほどの海賊。
二人を止血して一人を抱き上げる。立ち上がると抱き上げた教員のほうが明らかに大きく、
ワイルドタイガーやバーナビーのような肉体強化系の能力なのだろうかとも思う。
「誰かもうひとりをお願いします」
「ああ、任せてくれ!」
さすがにもう一人は抱えられないらしい。呼びかけにスカイハイが応える。
ポイントよりも犯人よりも人命を優先した海賊にヒーローたちの好感は知らず上がった。
「犯人は男性がたにお任せします。子どもたちもできるだけ運び出してあげてください」
言外に救急患者が済めば戻ってくると滲ませて。
夜の差し迫る中で、彼女は清冽にデビューを果たした。
結局犯人は力自慢組、子どもたちと無事な教員を戻ってきた二人と警官隊も加えて全員で運び出した。
彼らはその後30分ほどで起きたらしい。怪我人も重症ではあるものの一命を取り留めたとか。
神の名を冠する
110609 初稿
110708 修正