目を開く。
真っ暗だ。




腰に添えられた手






休もうと思ってベッドに入ったのに、眠れやしない。
ごろんごろんと寝がえりを打って位置を変えても無駄だった。
目をつむって転がってるだけでも休息は得られるし、しょうがないと諦めて力を抜いた。

がデビューして約1月。
本社での内務にも慣れ、ヒーローとしてテレビに映るのも、トレーニングに入るルーティンにも慣れた矢先であった。

こんな夜が1週間続いている。





眠れない夜を過ごした翌日も、はジムに姿を見せる。
スポーツ選手ではないが、一日の遅れは体をなまらせる。特に今まで熱を入れて励んできたわけでないから言うまでもない。

「おはよう!そしておはよう!」
おっはよー!!」
「おはようキース、パオリン」

先に来ていた二人といつも通りあいさつを交わし、トレーニングマシンへ。
そのあとはいつも通り。時間の合うものから集まりだして、各々のメニューをこなす。

しかしこの日、その"いつも通り"が崩れることになった。



「最近の顔色悪くなぁい?」
が席を外している間、ネイサンが切り出した話題が居合わせた者たちの間に広がっていく。
「そうかぁ?」
「おじさんに聞くほうが間違ってますね。目立つ変化ではありませんけど‥少しそんな気はしますね」
「バニーちゃんひでぇ」
「バーナビーです」
「明らかに肌のツヤがなくなってるのよねぇ」
「朝見たときクマできてたよ」
「そ、そうなのかい?!」
ヒーローの王は気づいていなかったようだ。
気付いていたものそうでないもの、混ざってはいるが、薄々変化は感じていたようで。

「本人に聞くのが一番だろうな」
「私たちよりスカイハイが聞いたほうが自然かしら」
「俺たちが行っても隠しそうだしな‥」
「ああ任せてくれ!この任務全うしてみせるよ!」

全員一致でちょっと不安になった。






「うん?どうしたの?」
プレスベンチにぼんやりと座るに声をかけるとゆっくりと顔がこっちを向く。
その頬にはたしかに前よりも赤みがない気がしないでもない。
それに今までは近くに来た時点で気付いて振り向いているのに。
声をかけるまでピクリとも動いてなかった。

「最近調子が悪いんじゃないかい?」
「そう?」
「反応も悪いし。前はもっと声を掛けてくれたじゃないか!」
「気のせい「じゃない」あー‥みんなには言わないでくれる?」
差し金ともいえるキースを怪しむ事もせず、苦笑して返す
彼女のトリックスター要素がやはり薄い。

「実は‥」








「眠れていないそうだ」
から事情を聴き、他のメンバーの元に帰ってきたキースの言に、イワンが疑問符を飛ばす。
ちなみにこの間にミーティングルームへ作戦本部を移している。
「でも、さんの能力って」
「眠れないから能力で無理矢理眠って‥、だから回復が間に合ってないようだね」
「そんな‥」
つまりその不眠の原因が除かれないと彼女は衰弱していくことになるのでは。
一同の顔が暗くなる。ちなみにこの場から虎徹とアントニオはいなくなっている。
キースが帰ってくると入れ替わりにの元に向かったのだ。

「おぉいちょっと来てくれ」
その虎徹が一人だけ他のメンバーが集まるミーティングルームに顔を出した。
どこか張りつめていた先とは違い、苦笑している。



ぞろぞろとのいるトレーニングルームに移動すると、
「あら、寝てるわこの子ったら」
「アントニオと話してて静かになったと思ったらこれだったぜ」
「ひと肌が恋しいんですかね」
アントニオの肉厚な肩に寄りかかり、静かに寝息を立てるの姿。
支えになっている男は動けないが、慣れたように余裕を見せる。

「あらぁ、ぴったりくっついちゃって!添い寝してあげなきゃいけないわねぇ」
「おいちょっと待て、なんでこっち側に来る逆だろ!」
どさくさまぎれにとは逆側からアントニオにくっつこうとするネイサンと、

「そこを代わってほしいんだが」
「無理だろこの状況」
羨ましがるキングオブヒーローの姿。


「ちょっと重く考えすぎてたんだな」
この世界に飛び込んだことに後悔はない、が、やはりそれに伴う生活の変化と責務についていけなかったようだ。
少し触れてみれば熱もある。
「知らずストレスになってたのね」
「僕と違って無理矢理世界に入れられたようなものでしょうし」
なったばかりなのだから仕方ない、とバーナビーにして珍しいかばうことば。
「すまない‥」
「先輩を責めてるわけじゃないですよ」
誘った張本人だというキースがしゅんと肩を落とす。
メンバーの中でも体格のいい男が肩身を狭くしてもあまり視覚効果はなかったが。




!これおいしいんだよ!!一緒に食べにいこ!!」
「新しい化粧品が出たらしいから見に行きましょ」
「いつでもおいちゃんの胸にとb「んなものより、女子だけでエステとかいきましょうよ〜」

が久しぶりに能力なしで、しかもアントニオの肩を借りて寝てしまって、
猛烈に謝り(笑って許してくれた。いい人‥!)恥じながら伸びをしてると女子組からの猛烈なアタック。
おじさんが混じっている気がしたが、
下心や無理をしている感じの見られない純粋な誘い。
それでも急なその勢いに、ハメられたかな、思いつつも、嬉しくて。

過保護なんだから、と心の中だけで苦笑する。

「〜〜!ありがとう!もちろん遊びに行こう!!3人とも大好き〜!」
3人に熱烈なハグとキスの雨を!




摩天楼






あの日から眠れるようになりました。




110715